【研究紀要巻頭言】授業改善を通して自尊感情を育てる

年間約1000時間、授業時間がある。この1000時間の授業をどのようにするのか。そのあり様によって、子ども達の私達教師に見せる姿も違ったものになってくる。授業こそ、学校教育の中核であり、学校改善の柱である。

ある学年の子どもが、校長室にやってくる。百人一首暗唱のテストを受けるためである。校長室には一人しか入れない。ある男の子は緊張して入ってくる。緊張していることが体全体で伝わってくる。私が上の句を朗々と詠む。

「やへむぐら しげれる宿の さびしきに」

男の子が思い出しながら「人こそ見えね 秋は来にけり」

この句は合格だ。しかし、一句だけでは完全な合格ではない。全部で五句暗唱できていると完全な合格。教室で担任教師に既にテストを受けているので、大方は大丈夫だ。

次の上の句を詠む。

「春すぎて 夏きにけらし 白妙しろたへの」

時には暗唱できていない。「衣ころもほすてふ 天の香具山」が出てこない。ちょっぴりヒントを出す。それでも出てこない。

私は「残念だね。もう一度挑戦!全部の句をもう一度復習!」

その男の子は悔しそうに校長室を出ていく。

しばらくすると再び校長室がノックされる。不合格だった男の子。

「校長先生、もう一度お願いします」

そしてテスト。今度は大丈夫だ。私が「合格!」と言って、シールをプリントに貼るとその男の子は満面の笑みで「やったー!」の声。校長室を喜び勇んで出ていく。校長室の外で他の子に「合格したよ」とうれしそうに報告している。

このような光景は、教室の中で、学校の中で日々繰り返されるごく普通のものである。日常的な光景だが、そこに教育の本質がある。

子どもにとって、できなかったことができるようになるということは、この上ない喜びである。この喜びが達成感や成就感となり、一人ひとりの子の自信となる。

日々繰り返される教育活動の中で積み上げられる自信が、その子の自尊感情を育む。「僕でもできる」「努力すれば僕でもやれる」といった自尊感情が、生きていく上での基盤となる。自尊感情を基盤としながら自立への道を歩み出すのである。

小学校として、一人のもれもなく、全ての子どもに、どのように自立への道を歩ませるのか。それはどのような授業を保証し、どのように授業改善するのかを考えていくことである。その答えとして、私達野付小の教職員が考えたことが「基礎学力」「ユニバーサルデザイン」「野付学」というキーワードである。そして、それが研究の三本柱となった。

学力向上が学校の責務だとしたら、それは学校の総合力が問われていることと同じである。私達の研究は、学校の総合力を向上させることを願って取り組み出したものである。まだまだ歩み出したばかりである。未熟な面も多々あるだろうと思う。

しかし、野付の子全てに「生きる力」をはぐくむことをとおして、野付を愛し、野付を誇りとするような子ども達に育てようとする方針は、間違いのないものであり、今後も揺るぎのないものであると考えている。

本研究会開催にあたり、多くの関係各位、関係諸氏からご支援・ご協力をいただいたことに心から感謝申し上げる次第である。

※初出 平成23年 研究紀要

 

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