【校長会誌】子供の事実から教育を成立させる
【解説】平成30年10月22日記
今回掲載するのは、根室管内の校長会の機関誌に書いた文章です。『校長会誌』は校長と教育委員会関係者だけが読む機関誌で、何を書くかは各校長に任せられています。「子どもの事実から教育を成立させること」これは私が若いときから学んできたことです。そのことを主張した文章となっています。
※初出 平成28年 校長会誌
「東京はずるい」と、授業中S君がつぶやいた。学級ではそれほど目立たない子だ。スポーツも勉強もそれほど得意ではない。どちらかというと苦手としている子だった。以前、私が5年生を担任しているとき、社会の時間に発したつぶやきだった。小さな声で発したS君のつぶやき。それを無視することはできた。
しかし、私は授業をしながら「このつぶやき」を基にすれば、授業を成立させることができると思った。そこでS君を指名した。「S君、今東京はずるいと言ったよね。どうしてそう考えたのか理由を言ってごらん」
S君は、たくさんの人がいる、何でも東京にある、どこに行くにしても便利だという。自分の住んでいる中標津町と比較すると、東京はずるいのではないかと言うのである。
私は全体に問う。「S君の言った東京はずるいに賛成か。反対か」
当然のように子供たちの意見は分裂する。分裂するといっても、ほとんどがS君の考えに反対である。普通ならS君はほとんど発言しないような子である。しかし、S君は理由を訥々だが発表する。その意見を聞いて、他の子から反対意見が出る。思いがけずS君も反論する。白熱した話し合いとなっていく。
その時間の残りはほとんどなくなっていた。私は「それぞれの根拠となることを家で調べておいで。その調べてきたことを次の社会の時間に発表してもらいます」
こうして子供たちは、S君の「東京はずるい」というつぶやきから東京、日本の在り方について深く学んでいったのである。
私は、子供の事実から教育を成立させることを一番に考えてきた。それは管理職になってからも変わらない信念である。