【文集原稿】「牛の乳首はいくつあるのか?」
【解説】平成30年8月27日記
授業をダイナミックに展開してみたい。若い頃からそのように願ってきた。社会科の授業で「本物」に触れさせることはとても重要だ。どんなに言葉で、画像で、動画で教えたとしても、「本物」にはかなわない。
生活科が誕生する前、低学年にも社会科があった。社会科の中で地域の農業を学習することになっていた。当然、別海であれば酪農である。子どもたちに本物の牛に触れさせたい。実地で学習する方法は当然やるとしても、その前段階で「牛」に興味を持たせ、酪農に関しての追究意欲を喚起するために、私は地域の4Hクラブの方にお願いして、学校に本物の「牛」を連れてきてもらった。子どもたちの反応は予想以上。興奮し、目を輝かせ、笑みがこぼれ、時には牛に触ることへの恐れが一杯の授業となった。
そして、4Hクラブの方々は、その年度のまとめとして文集を出すこととなった。私にも書いてほしいということで書いたのが以下の文章である。
なお、当時の子どもたちへは「牛のおっぱいはいくつあるのか」と聞いているが、正確には「乳首がいくつあるのか」である。
※初出 昭和63年
4Hクラブの方々に感謝
社会の時間に
「牛におっぱいはいくつあるかな」
と2年生の子供たちに尋ねた。
当然、別海に住んでいるのだから知っているものだと思った。子供たちは、口々に「二つ」「三つ」「四つ」「五つ」「六つ」「七つ」「八つ」だとかそれは大騒ぎである。
ついでに、私の周りの大人にも聞いてみる。やはりはっきりしないのである。
実を言うと、私もはっきりと、牛のおっぱいはいくつあると断定できなかった。
それを知ったのは、「社会の授業で子供たちに牛を見せていただけないか」と会長である小野さんと打ち合わせをしている時に、たまたまその話がでて、私は知ったのである。
酪農大国であるここ別海に住んでいながら私たち市街地の大人も子供も牛のことをよく知らないというのが現状である。
2年生の子供たちが間近に牛を見る。触ってみる。牛の乳を実際にしぼってみる。
教科書では味わえないことである。口でいくら教えたところで、たった一度の体験が何にもまして子供たちに与える影響は大きい。子供たちが別海町を愛するとか誇りに思うとかいう気持ちは、地域の人たちとの交流を通して培われていくものである。かりに、どんなにそれがささやかであってもいいのである。
今回のことは、どれほど多くのことを子供たちに与えてくれたか計り知れないものがある。教師である私たちが子供たちに教える以上に、4Hクラブの方々が実際に親牛、子牛を連れてきていただいたことが将来別海町を背負って立つだろう子供たちに対する大きなプレゼントになったことを確信している。
忙しい時期に、快く協力していただいた会長である小野さんをはじめとして4Hクラブの方々に感謝したい。