【原稿】「大きな変革」は管理職がリーダーシップを発揮する

【解説】令和2年6月5日記

学校を変革していくためには、小さな改善を積み上げることである。

改善のポイントは、システムである。

システムがないために、その場、その時限りで対応することが多くなる。

個人の思い込みで対応するために、他の人たちが右往左往することになる。

それまでの悪習ともいうべき流れを変えていくのは、管理職の仕事である。

それも校長というより教頭の仕事である。

学校改革は、校長がクローズアップされることは多いが、私の実感としては教頭の働きぶりが重要であると感じる。

※初出 平成14年 機関誌原稿

管理職のリーダーシップ

職員の勤務時間がきちんと守られる学校は、私の見聞きする中ではそれほど多くない。ほとんどないと言ってもいいくらいである。勤務時間が過ぎても、仕事をしている職員が多くいる。放課後、さまざまな会議がある。その会議も定刻までに終了することもなく、たいていは時間オーバーである。それが変だとも思わず、常態化している。提案の仕方も話し合いの方法もいい加減である。その場の思いつきで発言する。特定の教師が、延々と話す。たくさん話し、大きな声で発言する教師の意見が通るような雰囲気がある。勤務時間終了後、平気で分掌会議を開催する。研修なども正規の時間で終わることもめったにない。職員会議で決定していたことが、なぜか一夜過ぎるとくつがえっていたということもある。勤務時間をオーバーして、学校に残り、仕事をすることが、教師として立派だと思っている。旧文化教師の典型である。管理職になる前、そうした学校の悪しき習慣を少しでも改善できるのは、管理職しかいないと思っていた。管理職こそがリーダーシップを発揮し職員の勤務状況を改善する。それが私の目標の一つであった。

 

職員会議の改善

二年前、私は教頭になる。その年の四月初め、教頭になって職員会議の状況について職員に聞いた。「勤務時間内で終了する事は、めったにありません」それが返答であった。私は、職員会議が定刻に始まり、定刻までに終了することを当面の目標とした。昨年度の一年間の職員会議議題を全て洗い出し一覧表にして職員に配布した。私は予め「議題一覧表」(この表の中には、司会者・記録者・開始時刻・終了時刻・場所・議題・時間・次回の開催日時などが記入されている)を職員に回覧し、論議して欲しい議題、必要な時間、担当者を記入してもらった。また、職員会議開始時に司会者が言う「今日の議題は、この一覧表に書かれている事柄です。それ以外に議題をお持ちの方いませんか」というのを止めさせた。この発言を司会者がした瞬間に私は、「やめてください。そのために前もって議題一覧を回覧しています。もし必要なら次回提案してください」とぴしゃりと言った。

職員会議は、勤務時間内で終了するようになった。しかし、それ以外にも問題はあった。定例の分掌会議は放課後きちんと位置づいていなかった。そのために各分掌の会議は、それぞれが必要に応じて開いていた。また、分掌会議ばかりでなく、各部の部長が集まって、連絡調整を図る部長会議は月に2回開かれていた。分掌会議も部長会議も管理職である私は入っていない。そのためか、勤務時間が終了しても延々と続けられることがあった。

 

若い教師を育てる

私の学校は、知床半島にあるへき地校である。私の住む羅臼町に異動希望を出してくる教師はほとんどいない。入ってくる教師は新卒教師ばかりである。新卒教師は、担任の仕事をどのようにしていいのかほとんどわからない。当然、分掌の仕事は何も知らない。学校行事があったとき、どのように教師として行動したらよいのかもわからない。この若い教師を育て、一人前にしていくにはそれなりに時間がかかる。職員会議を大きな学校と同じように定刻通りしたからといって、何もわからないというのでは話にならない。若い教師を育てること、これも大事な私の仕事であった。

 勤務時間を守り、職員の生活を守る。

若い教師を育て一人前にする。そのためには時間が必要。

この二つのことを同時に解決しようとすると、葛藤が生じる。時間を守るのか、時間をとるのか。そのために私がしたことは、学校のシステムを見直し明確にしていくということであった。学校のシステムを見直すために、小さな改革と大きな改革をすすめることである。

 

小さな変革としての校外勤務処理の仕方

勤務時間中に学校から離れるとき(校外勤務)には、何らかの届出を校長にし、承認を受けて出掛けるということが原則になる。すべて文書上に書き表されたものが大切になる。勤務時間中に他校に文書を届けたとする。帰り道で交通事故に遭った。この場合、公務災害となるかどうかは、その人の生涯の保障ができるかどうかという大切な問題を含んでいる。裁判になったとき、証拠となるもの、それが「諸届け」となる。前述の例で言えば、外勤簿に記入して、他校に文書を届けていたかどうかということが重要な判断材料となる。ちなみに「外勤が許されるのは、正規の勤務時間中において行い、勤務地において公務を処理できない場合」とされ、「緊急やむおえない場合を除き、予め勤務場所、勤務内容、勤務時間を明確にし、外勤簿に記入する」と北海道の場合なっている。

本校の場合、この「諸届け」を提出するということに関して、ちょっとした混乱があった。わずかなことであるが私にすると気になる。

個人が記入した外勤簿・校外研修処理簿・休暇等処理簿は誰に手渡すのか。

ある職員は、校長の机の上に出し、ある職員は教頭に提出している。

全ての事項については、校長が承認する。その承認のもとで校外勤務が許される。その考えからすると、校長の机の上でもいいわけである。しかしながら次の考え方もある。職員にとって直接の上司とは教頭に当たり、また校長を補佐しているのは教頭である。それゆえに教頭に諸届けを提出するということも間違いではない。どの立場に立つかは、そのときの「校長と教頭の関係」「職場の状況」によって決定することになる。

ここで問題なのは、校長に提出するか、教頭に提出するのかという問題ではなく、「システムを明確にしてこなかった」ということである。この責任は、もちろん教頭である私にある。そこで、私は校長と相談した上で次のように決めた。

諸届けは、教頭に提出する。

教頭が「はい、わかりました」というのは、あくまで仮承認にすぎない。

正式な承認は、校長が印を押すことによって成立する。

わずかこれだけのことを職員に知らせ徹底を図っただけでも職員の動きは変化した。私の「小さな悩み」も解決し、精神衛生上も良かった。

 

大きな変革に取り組むためのシステムづくり

昨年度は、学校評価を実施しなかった。学校評価を実施するということが学校経営の中に位置づいていなかった。学校評価を実施しなくても不都合もなかったということらしい。いつの間にか学校が変わっていた。そんなこともあったらしい。

学校評価をきちんと位置づけることで、職員が日ごろ抱いている不満をきちんと改善できるようになる。学校を少しでもよりよくしていくシステムが整っていく。

学校評価を実施するうえで私がまずしたことは、担任する以外に学校の中にはどんな仕事がいくつあるのかを洗い出すことであった。結果は大まかなものでも192あった。これを職員10名ほどで担当するわけだから、平均一人20の仕事が割りあたることになる。もちろんその仕事によって、仕事の軽い重いはある。年齢によって割りあたる数も違う。当然、仕事の名前も「始業式担当係」というだけでなく、何をする係なのかを明確にする。「始業式の司会をする係なのか」「始業式の計画を立てる係なのか」「始業式の会場を準備する係なのか」等わかっていそうでわからないことを明確にするのである。しかも一文で明確にする。「すること」を中心に書けば、評価もしやすくなる。「したのか」「しなかったのか」という観点で評価すればよいのである。「きちんと実施したとしたら、もっと良くするためには何を改善すればよいのか」「しなかったとしたら、何故できなかったのか。それともその仕事はもともと必要でないのではないか」等と考えていくことができる。

エクセルで一覧表を作成する。それらの仕事を誰が担当しているのか。いつ実施するのか。いつ提案するのか。そして評価欄を付ける。この一覧表を職員に配る。これだけで仕事量が大変多いことに職員一同改めて気づく。そして、仕事を進めていくためには、一年間の見通しを持つ必要性をある程度理解するのである。

 

以上、二年間における私の「改革」の一端について紹介した。教頭である管理職は、「小さな変革」を大切にするとともに、「大きな変革」をも視野に入れながら取り組む必要がある。また、その「大きな変革」をできるのはやはり管理職しかいないのではないかと私は考えている。

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