【サークル通信】返事「ハイ」の根拠を調べたことがありました

【解説】平成30年9月18日記

子ども達が規律ある生活を送られるように指導することは大切なことです。しかし、それが行き過ぎると害の方が多くなります。事細かに大人側の論理で、ある種の型にはめようとすると、子どもの心に悪影響を及ぼす危険性があります。

ですから、子ども達に守らせる規律というのはできるだけ少なく、そしてそれが他のことにも良い影響を及ぼすものであることが肝要です。

今回紹介するのは、サークル通信に書いたものなのですが、本の原稿の依頼を受けた時に、下準備として調べた内容です。

※初出 平成14年 サークル通信

◆第3期「心の教育」シリーズの原稿に取り組んでいる。「道徳授業で教えるスキル学習」「名前を呼ばれたら返事をする」である。

◆名前を呼ばれたら返事をするということで、すぐに思い出すのは森信三氏の「しつけ3原則」である。

①朝の挨拶が出来る子に。

それにはまず親の方から誘い水を出す。

②名前を呼ばれたら「ハイ」と返事が出来ること。

それには母親が、主人に呼ばれたら必ず「ハイ」と返事をすること。

③席を立ったら必ず椅子を入れ,履物を脱いだら必ず揃える子に。

森信三氏は,この3原則のことについて次のように言っている。

躾の3原則は,その昔私が全国行脚によって感得したものですが,これは日本の旧家に伝わる共通した躾を原則的に要約結集せしめたもので,これを私が三つに押さえたまでです。この3原則についていつかは学問的な解明を試みたいと思いながら,そのままになっていますが、それにはまず心身総則を根底に置き,その上の型としての「躾」の意義を説き,次にここの原則について解明する必要がありましょう。要するに躾によって観念と行為とが結合する人間としての基本的骨格が出来あがるわけですね。随って躾は民族によって異なると共に、共通した項も多いと思われます。「朝の挨拶」は人間の呼応関係における「呼びかけ」の開始であり,「ハイ」という返事は,それに対する「応答」であり,かくして生命の初歩的循環ができうるのです。「履物」の躾に至っては,行為のしめくくりであると共に次の第1歩への出発の準備となるわけで,いわば2重の意味があるわけです。

 

◆くもん子ども研究所が1998年に子供達の生活習慣について調査している。その中で「呼ばれたらハイと返事する習慣・意識とストレスの関係」について調べてある。次のように研究所は分析している。

呼ばれたらハイと返事することは,多くの項目と関連が認められた。上段に並んでいる項目は,自己認識,自己への肯定感でもある。「勉強が出来る,人気がある,勇気がある」といった自己への自信であり,そして「親切,よく働く,正直」といった共生の心である。ストレス面においても、「イライラする,ムカツク,きれる」といった我慢のなさ,「帰宅したくない,学校へ行きたくない,朝起きれない」といった気力の面でも違いがあらわれている。

つまり、返事をする習慣のある子は,ストレス・意識ともに良好な状態にあると言うことである。

 

◆また「靴を揃える」という面でも同様な傾向が見られたと報告されている。そして次のように結論付けている。

今の生活習慣の差で,子どもの意識・ストレスに差がみられることがわかったが,「生活習慣を正せば、子供の意識・ストレスは良い方向に変わる」とまでは言えないかもしれない。しかし、今まで、多くの教育者・現場の実践者が生活習慣を正す,整えることにより子供が変わるという経験を伝え続けている。「子供が変わる可能性は,何もやらないよりは格段に高い」という仮説を持ってもおかしくはないだろう。

 

◆「ハイ」と返事が出来ない人,「ハイ」と返事をすることが苦手な人,そして他人との会話でコミュニケーションが苦手な人たちは,交通事故を起こす危険性が高いと主張している研究者もいる。聴覚言語反射神経と視覚運動反射神経が弱いので,集中力が瞬間的に低下する危険性があるのだという。

 

◆「ハイ」という返事を漢字に書くとしたら、どんな漢字になるだろうか。わかる人いるだろうか。「ハイ」と言うのを漢字に書くと,「拝」となる。「手を合わせておがむ」ということである。呼んでくれた人に対して敬意を表しているのである。ちなみに「拝啓」を省略した形でもある。自分の心を心を啓(ひら)き手を合わせて拝む。そして、返事のハイが生まれたのは平安時代だと言われている。

 

◆「ハイ」という返事は災いごとから身を守る知恵でもあったらしいと言われている。ほとんどの場合,声を掛けてくるのは善意の人である。悪意のある人は声を掛けずに忍び寄ってくる。したがって声を掛けてくる人を大切にする。敬意を表し,「ハイ」と返事をする。そうするとその人は自分の力になってくれる。悪意に満ちた情報も自分の知らなかった危険なことも教えてもらえる。その結果として自分の身を守れると言うことらしい。

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