【メモ】「独自性の承認」によるコミュニケーションづくり
子供同士の関係を作ることは、教師にとってとても大切なことである。とりわけ学校で起こる問題行動を防ぐには、子供同士のコミュニケーションづくりが大切になる。
しかし、その前提となるのは、教師と子供との関係、コミュニケーションである。まず、教師と子どもの関係を作ること、そうすれば必ず子ども同士の関係も作られていく。教師と子どもの関係を作るには何気無い日常の中にこそ、そのポイントがある。
学校が休みの日、回転寿司の店に行くと教え子が家族と来ていた。学校で普段見かける様子とは違っている。何とも幸せそうな雰囲気である。教え子と目と目で挨拶をする。
次の日学校で、その教え子に会って、「やあ、佐藤君。昨日の寿司はうまかったよね」
「へ、へ、へー」と教え子は照れ笑い。何ともすてきな笑顔を見せる。会話にはならない会話である。
しかし私は、こうした会話を大切にする。廊下を歩いていると、前から自分の学級の子が歩いてくる。私はこうした時、何も言わず通り過ぎることはまず無い。必ず一言声をかける。どんなことがあっても絶対に声をかけるようにしている。
「何して遊んできたの」
「前の時間の発言とっても良かったね」などと、声をかけるのである。
しかも私は、その子に関わった内容、その子にしか通じない内容、その時にしか通じない内容をできるだけする。
法則化セミナーの打ち上げパーティー。酔いも回ってくると、法則化運動代表の向山洋一氏が司会をする。マイクを持って、パーティーをしきるのである。
この中で私が特に気に入っているのは、向山洋一氏が参加者一人一人を指名して、スピーチをさせていく場面である。
「今回のセミナーに一番北から参加した青坂君」等と向山氏から紹介され、スピーチをする。向山氏は、名前だけを呼んでスピーチを要求することはまず無い。必ず名前の前に、その人ならではのこと、その人しか通用しないことを一言入れて全体に紹介する。そして参加者を次々にテンポよく紹介し、スピーチさせていくのである。
生徒指導の分野で、「独自性の承認」という言葉がある。一人ひとりの子供が十把一からげに扱われるのではなく、それぞれがユニークな存在として扱われ、教師からも仲間からも認められる。これが「独自性の承認」ということである。
言葉は難しいが、これを日常の中で具体化していこうとするなら、前述してきたように何気無い会話、何気無い言葉かけにこそポイントがある。学芸会が終了して、学級の子どもたちにスピーチをさせるとき。ただ子どもの名前だけを呼んで指名するのではなく、
「セリフを暗記するのに夜まで遅く頑張っていた田中君」
「道具を作ったあとの後片付けを黙々としていた斎藤さん」
等と言って、スピーチを促すのである。
こうした何気無い一言を付け加えることで、子どもは教師を信頼する。自分を認めてくれた、自分をきちんと見ていてくれる。自分の存在を認められたということ、この感情が仲間を心から認める言動へと結びついていく。この感情があるからこそ、子ども同士の心のふれあいが深まっていくのである。
坂本昇一氏はいう。集団のメンバーの間のコミュニケーションにおいて、「その時、その場で、その人(相手)にのみ通用する内容を、できるだけ多く取り入れるようにする」必要がある。
その時、その場で、その人にしかいえない内容を入れた会話をするのが一つの方法である。
※平成10年頃のメモ書きから