【学校便り】「躾(しつけ)」

【解説】令和5年1月26日記

私が教員時代に大切にしていたことの一つに、子供の何気ない仕草・言動から、その子の良さを見出すというのがあります。

ともすれば、大人の側は、テストやスポーツの成績で子供を判断し、それを褒める対象としがちです。

そのことはもちろん大切なことの一つには違いありませんが、子供の何気ない仕草や言動の中に潜む良さや美しさを常に見出せる教師であることはとても大切なことです。

それができるためには、教師にそれを見出すための「目」がなければなりません。

価値観を持ち合わせていなければなりません。

※初出 平成28年12月1日

◆毎朝、校舎内の生徒玄関ホールに立って、生徒玄関の戸を開けて入ってくる生徒に朝の挨拶をしています。午前7時55分頃から8時頃までのわずか5分程度です。しかし、この時間は私にとって生徒たちと触れ合える大切な時間です。もちろん全校生徒がこの時間帯に登校してくるわけではありませんので、一部の生徒たちということにはなりますが。それでも、生徒たちの朝の様子からハッとすることも多くあります。

 

◆最近は例年より冬の訪れが早く、登校時、冷たい風が吹いているときがあります。その冷たい風の中、歩いて登校してくる生徒たち。玄関に入ってくる生徒たちに「おはようございます」と声をかければ、ほとんどの生徒が「おはようございます」と挨拶を返してくれます。

 

◆そんなある日のことです。ある女子生徒。おとなしい子です。朝、右側の生徒玄関から入ってきました。自分の靴箱の所に行って、上履きに履き替えようとしました。その時、何かを思い出したようで、ハッとしてカバンから何かを取り出し、下の学年の靴箱に行きます。きっと弟に渡すものがあって、それを思い出したのでしょう。弟の靴箱に何かを入れます。

 

◆入れ終わって自分の学年の靴箱に戻ってくる途中、なぜか左側の生徒玄関ドアの方に行きました。開いたままで冷たい風が校舎内に吹き込んでくるドアをそっと閉めるためでした。開いていたドアを閉める動き。とても自然です。黙って見ていた私に何かを言われたわけではありません。私を意識して行動したのでもありません。誰かが閉め忘れ、開いていたドアを閉める動き。それがその女子生徒にとってごく当たり前の行動であり、体に義務感を漂わせることもなく、誰かに褒めてもらいたくてした行動でもなく、静かにそっとドアを閉めたのです。私は、その姿を見て、心の底から感心しました。美しい姿だな思いました。

 

◆ドアが開いていることに気付く注意深さ。自分が閉め忘れたのではなく誰かが閉め忘れたことをカバーできる行為。そっと閉めるやさしさのこもった気遣い。他人から褒められること・認められることを微塵も感じさせない謙虚な振る舞い方。その一連の動きが、自然であり美しささえ感じさせるものだったのです。きっとこれは小さい頃からのご家庭での育て方の賜物なのでしょう。幼少期からの素晴らしい「しつけ」があったのでしょう。「しつけ」漢字で書くと、「身」が「美しい」と書いて「躾」です。

 

◆人から褒められる多くのことは、勉強でいい成績をとったり、スポーツ、各種大会で優秀な成績をおさめたりした時が多いものです。勉強やスポーツ等で素晴らしい成績をおさめることは褒められるに値します。しかし、目立たない、誰も気が付かないことだけど、素晴らしい・美しい行為というものはあるものです。それもまた、今後とも大切にしていきたい生徒の「輝き」「美しさ」です。

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