【学校便り】続けることが「本物になる道」

【解説】令和5年3月25日記

人間の成長は、人それぞれです。

予想をはるかに超えることもあります。

ましてや一人の教師が偉そうに「将来のためになりません」とか「将来のために今きちんとしないといけないんです」みたいことを言ったところで、人の成長とはわからないのです。

教師は、「神」ではないのですから、先のことなんてわからないのです。

できることは、その時その時、一瞬一瞬において、どんな子でも信じるしかないのだと思います。

※初出 平成29年9月1日

◆私が小学校1年生を担任した時のことです。女の子でAちゃんという子がいました。Aちゃんは無口でとってもおとなしい子でした。AちゃんはAちゃんなりのペースがあり、何事もゆっくりと丁寧に作業する子でした。たとえば、ひらがなの「あ」の字を書くのでも、他の子より時間がかかりました。体育館に移動する時、みんなで廊下に整列するときも、なかなか時間がかかりました。

 

◆なぜ、こんなに時間がかかるのだろうと思ってAちゃんの動きを観察しました。「あ」の字を書くとき、Aちゃんの口が、微かに動いています。なんと言っているのかなと思ってよくよく見てみると、「いーち、にーい、さーーーん」と言っているようです。それは、私がひらがなの書き順を教える際、私の教えたとおりのことを言っているようなのです。また、ある時からは「朝日のあ」というように授業で私が教えたことを思い出し、つぶやきながら「あ」の字を書いているようです。もしかしたら、私の教えたことを素直に忠実に真似してひらがなを書いているのではないかと思いました。

 

◆私は、行動する時もまず自分の机上や身の回りの整理整頓をしてから、次の動作に移ることを教えていました。動作はゆっくりでも、そのことを素直に守ってAちゃんは行動していたのです。その一つが教室の中から出て廊下に並ぶときのことなのです。しかも他の子の椅子もきちんと整えてから並びます。そのために時間がかかっていたのです。

 

◆Aちゃんが遅い理由、それは担任として私が教えたことを素直に守り行動していたからでした。そのことに思い至った時、私は教師というのは何と恐れ多い仕事なのかなと痛感したのです。

 

◆ある時、Aちゃんのお母さんが相談に来ました。「私の娘は、何をやってものろまなんです。あまりに遅くて心配になります。青坂先生は、ゆっくり丁寧にやることを学級通信で言っていますが、それにも程度があると思うのですが」そんな心配事を私に相談してきたのです。

 

◆私は答えました。「母さん。人間の育ち方はみんな一通りでないんだよ。教えたことを要領よく覚えてさっさとできる子もいれば、Aちゃんのようにゆっくりと、しかも丁寧に、そして最後までやり通そうとする子だっています。Aちゃんは、今ゆっくり、丁寧に最後までやり通す中で、心の中に多くのことをため込んでいるのだと思いますよ。しかし、他の子より遅いということで急かしたりすると、Aちゃんの育ちつつある大切なものまでつぶしてしまうことだってあります。Aちゃんは、学級の中で困っている子がいると必ずと言っていいほど助けています。それは学級の中の仲間だけでなく、私が何かで困っていると手伝ってくれるんです。ゆっくり、丁寧に最後までやり抜く中で、きっとやさしさという芽が育っているのだと思いますよ」

 

◆それからのAちゃん、相変わらずゆっくりのまま。しかし、2年生になって少しずつ変わってきているように思いました。そして4年後。Aちゃんは、1年生の面倒をよく見る立派な6年生になっていました。何事も時間がかかっていたのが他の子たちと同じように行動し、しかも学校のリーダーとして、優しく面倒見のいい子になっていたのです。「ゆっくり、丁寧に最後まで」それを続けたからAちゃんは育ったのだと思います。簡単なことでも続けることが「本物になる」道なのです。

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