【学校便り】陛下のお言葉「心を込めて」
【解説】令和4年9月6日記
校長時代、北海道中学校校長会の理事を2年間させていただきました。
その時に皇居で天皇陛下・皇后陛下に拝謁する機会をいただきました。
私に力があったからではなく、たまたまそういう巡り合わせだったのです。
陛下のお言葉で強烈に心に残った言葉が「心を込めて」です。
私は、一瞬一瞬に「心を込めて」教師という職業に携わってきたのだろうか。
そして、今振り返って考えてみるに反省することばかりだということに気が付きます。
※初出 平成27年8月31日
今年の5月、皇居「春秋の間」にて天皇皇后両陛下に拝謁し、お言葉を賜りました。
その陛下のお言葉の中で、今でも私の心に響いているものがあります。
陛下は、お言葉の最後に
「今後とも教育に、また学校の運営に心を込めて携わっていかれるよう願っております」
とまとめられました。
この言葉の中の「心を込めて」という一語が私の頭から離れません。
私はいつも「心を込めて」仕事しているのだろうか。「心を込めて」とは、具体的にどうすることなのだろうか。
そんなことを、今でも考え続けています。
世の中には様々な人がいます。
考え方も違えば、性格も行動も、そして体つきも違います。
そのためにどうしても、人と接するとき気が合う・合わないということが生まれてきます。
極端な場合「あの人とは気が合うので好きだけど、あの人は気が合わずなんか嫌いだ」といった人の好き・嫌いということまで残念ながらあります。
人に対して好き嫌いがあれば、心を込めた行動をすることはできません。
人としての成長もありません。
嫌いな先生だったので、その教科が嫌いになったとか、教えてくれた先生のことが好きだったので、その教科が好きになったということは、私たち大人も経験してきたことです。
そして、人の好悪は感情・気持ちだからどうしようもない、と思いがちです。
しかし、本当にそうでしょうか。
北京オリンピックの競泳日本代表チームに招かれて、好成績の陰の立役者となった先生がいます。
脳科学の観点からアドバイスをした先生です。
競泳日本代表の中には有名な北島康介選手もその中にいました。
その先生とは、脳神経外科医林成之先生という方です。
北京オリンピック水泳競泳陣がチーム全体としてまとまりがなく、一体となれなかったとき、林成之先生は競泳の選手たちに次のように言っています。
「君たち、コーチや監督を嫌いになると、自分の力が発揮できませんよ。
どんなに嫌いなコーチや監督でも、自分がオリンピックで力を発揮するために、神様がつかわした人だと思いなさい」
監督・コーチから自分の弱点・欠点を指摘されると、自分の今までやってきたことを否定されたように感じ、自分を守りたいために「そんなことわかっているよ」と、つい反発したくなるものです。
このような状況の中では、監督・コーチ・選手が一体となったチームは決してできません。
他人からの指摘やアドバイスを素直に受け入れる「心」が必要です。
これは、選手側だけでなく監督・コーチという指導者側にも必要な「心」です。
お互いが歩み寄ってはじめて成長できるようになります。
選手は「自分には、まだまだ弱点や欠点が多くある。あの監督はよく指摘してくれた。ありがたいことだ」と考える。
反対に指導者は、反発・文句を言ってくる人に対して「わかりましたよ」と一言言ってあげる。
そうすれば選手と監督・コーチである指導者と気持ちが通じ合うと林成之先生は言います。
そして、日本競泳陣にそのことをアドバイスしたのです。
結果は、日本競泳陣は気持ちを切り替え、水泳は個人競技が多いのにも関わらず「オールジャパン」として大活躍しました。
その「オールジャパン」の姿勢は今でも受け継がれています。
世界大会になると他の選手の出番をプールサイドから応援する選手たちがたくさんいて、テレビの画面に映し出されることもよくあります。
「心を込めて」とは、自分の好き嫌いを乗り越えて、丁寧に最後まであきらめず接することです。
二学期、全ての生徒が「心を込めて」勉強・学校生活・部活動等に頑張ってほしいと思っています。
そして私も。自戒の言葉として、肝に銘じていきたいと思います。