【学校便り】とりとめのない話
※初出 平成25年6月 学校便り巻頭言
◆「あおさかー」と呼ぶ声がします。中学校時代、毎日のように、私の家に友達がやってきます。それも一人ではありません。夕方になると、何人もやってきて、私を呼びます。家の2階にいる私は、いつものように「あおさか」という呼ぶ声がすると、外に出ていきます。友人達は、ほとんどが自転車でやってきます。自転車にまたがりながら、私を呼ぶのです。
◆家から、どこかに行くわけではありません。私の家の前で話をするのです。2、3人。多い時は5、6人で輪になりながら話をします。今から40年も前のことです。どんな話をしたのか、ほとんど覚えてはいません。テストの話や勉強の話、テレビ番組や好きな子の話。そんなことを話していたのかもしれません。話の内容をしっかりと覚えていませんが、その光景だけは、私の記憶にしっかり残っています。
◆私の家の前は、舗装されていない土の道路でした。40年前、ほとんど車は通りませんでした。その道路で長い時間、話をします。自転車で来た友人は自転車にまたがっています。自転車にまたがりながら、長い時間、話をしていたのですから、今となってはよく疲れなかったなと思います。みんな坊主頭で、笑顔でした。夕方から話し出し、電柱の電灯が点き出すと、「それじゃな」と言ってみんな帰っていきました。
◆毎週一回、スクールカウンセラーのI先生が来校します。昼休み、I先生のいる相談室は生徒たちでにぎやかになります。相談業務が終了して、帰り際、I先生に聞いてみました。「何を生徒たちは話しているのですか?」「そんな大そうなことじゃないですよ。しいて言えば、とりとめのない話です」そのI先生の口から発せられた「とりとめのない話」という言葉を聞いて、私はハッとしました。それは私の中学時代のことを思い出したからです。もしかしたら、思春期に入る中学生にとって、「とりとめのない話」というのは、とても大切なことなのではないか、そんなことを思いました。
◆40年経った今でも覚えている、あの中学生時代の友人たちとの「とりとめのない話」。友人たちの笑顔、当時の光景、空気感、友人たちと会話を通した心のふれあい、満たされていくある種の幸福感。
◆授業では、先生の話を黙って聞いて、ノートして。放課後は、部活動や生徒会活動にまじめに取り組んで。時折、荒れる友人達がいて。小学校時代から中学校時代に移っていく中で、体の変化に敏感になり、妙に異性が気になって。そんな中で、とても貴重だった友人たちとの「とりとめのない話」 私たち大人からみると中学時代はわずか3年間です。3年間はあっという間に感じるものです。しかし、中学生にとって3年間というのは、体の成長だけでなく心の成長にとっても、とても貴重で大切なもの。そのことを「とりとめのない話」から思うのです。