【集団思考論】第11回 学級世論を作り上げる

30年近く前の実践である。

それを前回から紹介している。

今ならもっと違う実践をするのか、それとも同じようなことをするのか。

もっと突き詰めて考えるのだろう。

前回の続きを紹介しておこう。

私は学級集団の力を借りることにした。

学級全員はトオルのしたことに対して「悪い」と考えていることをトオルに突き付け、今一度トオルに考えさせようと私は思ったのである。

すなわち、「悪いことは許さない」という学級の世論を作り上げること。

それがトオルを揺り動かすと考えたのである。

私は学級の一人一人にトオルの行為についてどう考えるか聞いていこうと思った。

この時、私は最初に誰に発言させるのかを考えていた。

もし、私がトオルと仲の良い子に指名して発言させたらどうなるか。

発言しないばかりかトオルに同調するかもしれない。

それは避けなければならない。

私の意図したことを発言してくれる子に指名したい。

それもできれば自然な形で指名したい。

私は、日常よく列指名を行なう。

だから、列指名の形で私が意図することを発言してくれる子にまず当てたい。

私はそのように考えた。

私は、おとなしいけど芯のある、しかも列の一番前に座っている女の子のそばまで行って指名した。

女の子ははっきりと

「トオル君は悪いと思います」

と答えた。

私は、その発言が言い終わるやすぐに

「そうだよね。先生もそう思う。どんな理由があるにしろ、他の人のノートにいたずらがきをしたり、カッターで切ることは悪いよね」

と大きな声で言って次の子の前に立って、その子を指名した。

その子も

「悪いと思います」

と言う。

私はその発言を聞いて、大げさなくらい「うん」とうなづく。

そして、三人目はトオルと仲の良い子である。

前の二人と同じようにその子の前に立って指名した。

その子は、小さい声ながらも

「悪い」

と言った。

その子の発言から、トオルの顔つきが変化してきた。

 「三人の力」

「たった三人」かもしれないが、それは「集団の力」となってトオルに迫っていたのである。

その後、私は次々に指名しトオルの行為についてどう考えるのか発言させる。

すべての子が「悪い」と答える。

そして、私はだめを押すように

「トオル君のやったことは悪いと思う人はまっすぐ手を挙げなさい」

全員の手が上がる。

私は、

「トオル君。見なさい。全員が悪いと言っていますよ」

トオルは、うつむきながら自分の回りを見回した。

しかし、全体を見回す前に目から涙がこぼれた。

私は、トオルに聞いた。

「あなたのしたことは、悪いことですか」

トオルは、「うん」とうなづいた。

私は、

「そうだ。悪いな。そのことを認めれるな。自分のしたことが悪いと認めれることは立派なことだ」

とトオルを認め、

「それじゃ、どうしたらいい」

と尋ねる。

トオルは、「あやまる」と言う。

「よし、そうだ。アユミさんの所であやまりなさい」

トオルは、アユミの前に言って「ごめんなさい」と頭を下げた。

私は、先程答えられなかったサトシに

「あなたはいたずらがきをして、カッターでノートを切ったというのは本当か」

サトシは、

「いたずらがきしたのは本当だけど、カッターで切ったのは違う」

と答えた。

「それは本当だな」と念を押した後、私は、

「いたずらがきをしたのが事実だとしたら、そのことについてどう思う」

「悪い」

「そうだな、それじゃどうしたらいい」

「あやまる」

「よし、そうだ。あやまりなさい」

サトシもアユミにあやまった。

「よし。よろしい。あやまることは勇気がいる。二人とも立派だ」

と言って、この問題を私は終わりにした。

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